もっとツケのことを知りたいなぁ
歌舞伎の盛り上がる場面でツケの音を聞くと、ワクワクしますよね?
実は、ツケには芝居を盛り上げる以外にも、役割があるのです。
この記事では、ツケの注目ポイント、ツケを打つ難しさ、ツケの決まりについてご紹介します。
記事を読み終えると、ツケの注目ポイントがわかり、今よりももっとツケの音を聞くのが楽しくなります。
ツケの役割ではないんです
ツケの注目ポイントを紹介しましょう
目次
ツケとは、歌舞伎独特の効果音
「ツケ」とは、歌舞伎独特の効果音で、木を打った大きな音のことを言います。
・ツケ(附け)の由来 芝居に音を「つける」ことから
・ツケ(附け)打ち ツケを打つ人
ツケのいちばんの役割は、強調すること。
ツケには、見得などのそもそも誇張されている歌舞伎の演出を、さらに強調させる効果があるのです。
ツケを打つ効果
・役者の演技を強調して、動きを大きく見せる |
・物音を強調する |
・重要な人物、重要な小道具であることを伝える |
・見得などの歌舞伎の型を強調する |
ツケはいつ、どこで、どのように打つの?
いつ | 役者が走る場面、六方などの見得をする見せ場 など | 芝居の重要な場面 | 大道具の転換、小道具を印象づけたいとき |
どこで | 舞台の上手(かみて)の端で | ||
誰が | ツケを打つ「ツケ打ち」が | ||
何を | 2本の木(ツケ木)を | ||
どのように | 手に持ったツケ木を床に置いた板(ツケ板)に打ちつけて、音を出す |
ツケの音は、役柄や心情によって変化
歌舞伎を見ていると、なぜ、ツケの音が気になるのでしょう?
理由は、役柄、心情、状況によって、ツケの音が違うからです。
役柄によって | 男か女か、大人か子供か、武士か町人か、などによって異なる |
心情や状況によって | 同じ人物が走る場合でも、怒りや喜びなどの心情や、逃げているのか追っているのかなどの状況によって、変化 |
ツケの役割は、歌舞伎を盛り上げるだけではない
ツケの役割は、役者の演技や物音などを強調し、芝居を盛り上げるだけとは限りません。
ツケは、舞台の進行を「知らせる」という役割も担っているのです。
例えば、ツケの音がきっかけとなって、音楽が変わることが多くあります。
ツケ打ちが打ち始めるのは左手、打ち終えるのは右手と決まっています。
お囃子や義太夫などは、ツケ打ちの「知らせ」を見得の場面などで音楽を止めたり、音を変えたりするきっかけにしているのです。
ツケ打ちの動作に注目しよう
ツケ打ちの舞台の進行を知らせる動作以外にも、注目してみましょう。
- 舞台に出てくるとき
ツケ打ちが登場するのは、役者が花道にいるときなど、できるだけ観客の視界に入りにくく、芝居の邪魔をしないタイミングです。
- 舞台から退場するとき
退場も登場と同様、目立たないようにします。
ツケを打ち終わっても、すぐに立ち上がって引っ込むことはしないのです。
例えば、音楽の途中でツケ打ちが立ってしまうと、観客は「もうツケがないのか」、「クライマックスの場面が終わってしまったのか」などと思ってしまいます。
ツケ打ちの登場と退場には、観客への配慮や緊張感を持って見てもらうための工夫がされているのです。
ツケ打ちには、高度な技術と歌舞伎への理解が重要
歌舞伎役者の動きに合わせたツケを打つには、高度な技術が必要です。
役者によってセリフや動きの間(ま)のとり方は異なり、また、役者は観客の反応に合わせて日ごとに間(ま)を変えることもあるからです。
舞台上で小道具やセットのハプニングがあった場合に、舞台裏へ知らせに行ったりすることもあるそうです。
そのため、歌舞伎への深い理解がないと、ツケ打ちはつとまりません。
ツケの種類は2つ
ツケは2つの種類に分けられます。
動作や仕草を表す「現実音」 |
型や力を表す「効果音」 |
ツケの動作には「駆け出し」と「アシライ」がある
ツケの動作や仕草を表す「現実音」には、「駆け出し」と「アシライ」の2つがあります。
駆け出し | 人物が駆け出す様子を表す |
アシライ | 仕草の総称。動作を強調する |
アシライの例)
- 物語のキーとなる重要な物(手紙、家の宝の刀など)を落とす
- 物を切り落とす
- 高いところから落ちる など
本来はあまり音がしないような場面でもツケが打たれるのには、観客に「見逃さないで」と知らせる意味が込められているのです。
ツケは音がしない動きも表現している
実際には音がしない動きを、ツケで「効果音」として表すことがあります。
歌舞伎の独特の「型」や力強さを表す場合に使われます。
例)「見得」など
ツケの打ち方は、歌舞伎の台本には書かれていない
公演の台本には、ツケの打ち方は書かれていません。
ツケ打ちが各自、台本にツケを打つ場面や打ち方を書き込んでいくのです。
- 幕の開き方(定式幕か緞帳か)
- 音楽の種類(清元、常磐津、義太夫など)
- 役者の出入り
- 音楽がかかる場面
- 場面の転換 など
初日が開いてからでも、変更点や注意点など書き込みます。
ただし、言葉にするのが難しい細かいニュアンスや間合いなど台本に書けないこともあります。
ツケの音は、ツケ打ちの長年の感覚や技術によって発せられているのです。
ツケ打ちはもともと歌舞伎役者のお弟子さんがやっていた
高度な技術が必要とされるツケ打ちですが、歌舞伎役者のお弟子さんがやっていた時代がありました。
大道具の仕事の一部だったこともあり、ツケを打たない時は道具を組み立てたり運んだりしながら、ツケも打っていたのです。
現在は、ツケ打ちは専門職となりました。
ツケを体験できるワークショップなどは、プロの技を教わるチャンスです。
ツケの動作に注目!歌舞伎はもっと面白くなる
ツケの動作に注目すると、歌舞伎はもっと面白くなります。
ツケは物語を盛り上げるだけではなく、物語のきっかけや見逃せないポイントを教えてくれるからです。
ツケ打ちは高度な技術によって、台本には書かれていない間合いやニュアンスで音を出し、舞台を盛り上げたり、観客や出演者などにさまざまなことを知らせたりしています。
歌舞伎を観劇する際は、ツケ打ちの動作に注目してみてくださいね。
ツケの楽しみ方、ツケを打つ難しさ、ツケの決まりを知ると
次回の観劇がもっと楽しめますよ